このページの本文へ移動

第55回ADB年次総会 日本国総務演説(2022年9月29日 於フィリピン・マニラ)

第55回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
鈴木財務大臣総務演説
2022年9月29日(木)

1.はじめに
 総務会議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大後、初めて対面形式で総会に参加できることを嬉しく思います。今次総会のホスト国であるフィリピン政府の温かい歓迎に感謝するとともに、COVID-19の影響が残る中でも年次総会開催に向けて準備を行ってきた浅川総裁始め、ADBのマネジメント及びスタッフの努力に敬意を表します。

 総務演説に先立ち、安倍元総理の逝去に対する弔意のメッセージや、先日開催された国葬儀への御参列など、多くの国々からお寄せいただいた心遣いに御礼申し上げます。


2.日本の開発プライオリティ
 ADBの安全で効果的なCOVID-19ワクチン調達支援の取組に支えられたワクチン接種の大幅な進展により、アジア・太平洋地域の経済活動は再開に向けて前進していましたが、ロシアによるウクライナ侵略の長期化や、世界的なインフレ率上昇に伴う金融環境の引締めによって各国経済の回復は減速し、依然として厳しい経済状況に置かれています。

  エネルギー価格の上昇や食料不安という足下の経済的リスクによる影響を最小化しつつ、公衆衛生への投資拡大や気候変動対策、エネルギー移行支援等の中期的なプライオリティを達成し、持続的で強靱かつ包摂的な成長を実現するため、日本は以下の5つの課題を重視しています。
新型コロナウイルス感染拡大を抑制するとともに、コロナ禍からの復興、持続的な経済成長を実現するためには、日本としてこれまで取り組んできた以下の4つの政策課題が一層重要になります。これらの分野においてADBが取組みを継続・強化していかれることを期待します。

(1)保健
 日本はかねてより保健を優先課題として取り上げ、ADBを始めとする国際社会とともに途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を推進してきました。将来の健康危機への予防・備え、対応の強化と、それに資するUHCの推進は、途上国における保健システム強化のみならず、持続可能な経済成長を確保するために重要です。日本は、これらの分野で引き続きADBが主導的な役割を果たすことを期待します。

(2)教育
 COVID-19を要因とする学校の閉鎖により、世界中で多くの生徒たちが影響を受けました。学校の閉鎖中には教育の継続性を維持するために遠隔教育が取り入れられましたが、アジア・太平洋地域ではインターネットの普及が十分でない地域も多く、貧困層の子供達が教育システムから離脱する事態も見受けられました。
 質の高い教育に支えられた人的資本の強化は持続的な経済発展のために欠かせない要素であり、日本は、ADBによる公正な教育機会と質の高い教育の拡充に向けた取組の推進を、日本信託基金を通じて支援してまいります。

(3)食料不安
 COVID-19によりアジア・太平洋地域の多くの人々が貧困への後戻りを余儀なくされ脆弱な状況に置かれている中、ロシアによるウクライナ侵略の影響が更なる追い打ちをかけており、石油・ガスや肥料価格の上昇、サプライチェーンの分断による食料価格高騰は特に社会的脆弱層に深刻な影響を与えています。
 この観点から、日本は足下の食料安全保障に対する危機に対応するため、ADBが景気循環対策支援ファシリティの強化を通じて、支援を必要とする途上国に対する迅速な資金提供を図っていることを高く評価します。食料不安を含む経済面のリスクに対処するため、ADBが引き続き途上国に対する積極的な支援を行うことを期待するとともに、日本としても、日本信託基金を通じて、かねてから重視してきた栄養不良対策を支援してまいります。

(4)気候変動
 気候変動への対応は、よりグリーンで豊かで包摂的な経済成長を促す上でのグローバルな課題です。エネルギー使用量の増加が気候変動に及ぼす影響に留意しつつ、アジア・太平洋地域において信頼性が高く全ての人々が手頃な価格でアクセスできるエネルギーを確保し、同時に脱炭素化に向けた公正な移行を後押しすることが重要です。
 アジア・太平洋地域は世界全体の温室効果ガスの半分以上を排出しており、特に主要排出国による取組が鍵となります。温室効果ガス削減のためには、各国の実情に沿い、かつ、各国自身のオーナーシップに基づいてクリーンエネルギーへの移行を加速させるトランジション・ファイナンスを推進する必要があります。この観点から、日本はCOP26の機会に、石炭火力発電所の早期廃炉と再生可能エネルギーの導入を促す革新的な取組であるエネルギー・トランジション・メカニズム(ETM)に2500万ドルの拠出を表明しました。日本は、ETMの進捗を歓迎するとともに、他のドナーからのこの重要な取組への積極的な貢献を期待します。
 加えて、顕在化する気候変動による被害を回避・軽減させるためには、緩和策のみならず自然災害に対する強靱性を高めるための適応策が不可欠であり、特に気候変動の影響を受けやすい太平洋島嶼国への対応は重要です。
 日本は、ADBによるアジア・太平洋地域におけるClimate Bankとしての積極的な取組を歓迎し、ADBによる気候変動対策を引き続き支援してまいります。

(5)債務の透明性・持続可能性/国内資金動員
 COVID-19や、ロシアによるウクライナ侵略等を背景としたエネルギー価格の上昇等により、低所得国のみならず、中所得国の債務脆弱性のリスクが一層高まっています。こうした状況においては、債務国自らの債務健全化に向けた改革努力とともに、全ての債権者が協調して支援することが不可欠です。また、債務問題を起こさないためにも、平時より、情報共有を行い、債務透明性を高めることが必要です。日本は、ADBが知見を活かし、IMFや世界銀行と共に、アジア・太平洋地域の債務管理能力強化や債務の透明性向上に関する取組を推進することを期待します。
 また、税収基盤の拡大や税務執行能力向上等を通じた国内資金動員の強化や、経済のデジタル化等に対応した現代的課税システムの構築等を通じた国際租税協調が重要です。昨年ADBにより新設された国内資金動員と国際租税協調を促進するアジア太平洋税務ハブが、オープンかつ包括的なイニシアティブとして早期に積極的な活動を開始することを期待します。日本は、最大のドナーとして運営に貢献していく考えです。


3.組織改革
 開発を取り巻く環境変化やCOVID-19の経験を踏まえ、現在、浅川総裁のリーダーシップのもとADBの組織改革が進められているものと承知しています。アジア・太平洋地域における開発課題に対してより効果的に取り組むため、組織の最適化を目指しているものと認識しており、ADBの持続可能な組織運営のため、開発課題の解決に必要な知見(ナレッジ)の蓄積、ジェンダーを含むダイバーシティが推進されることを期待します。


4.結語
 COVID-19に加え、ロシアによるウクライナ侵略、それに伴うエネルギー価格の上昇や食料不安、気候変動により拡大する自然災害という複合的な危機にある中、経済の早期回復においてADBが果たす役割はますます大きくなっています。浅川総裁の卓越したリーダーシップの下で、ADBが豊富な知見とネットワークを活用し、加盟国や他の国際機関と緊密に連携しつつ、アジア・太平洋地域のより持続的で強靱かつ包摂的な成長のために主導的な役割を果たしていくことを期待します。日本は引き続きADBと密接に協力し、地域の更なる発展に貢献してまいります。

(以上)