【香港】激化する抗議行動と弾圧の行方 「ここで黙ったら未来はない!」 香港中文大学非常勤講師 小出 雅生さんインタビュー

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 「逃亡犯条例改正案」反対デモが続いている香港。林鄭行政長官は改正案撤回を表明したが、自治と民主化を求める市民の要求は、林鄭氏の辞任・逮捕者の釈放など5大要求へと拡大している。このため、改正案撤回について市民は、「あまりに小さくあまりに遅い」との評価で、「デモは続く」(小出氏)模様だ。若者らは立法会(国会)を一時占拠するなどしてきたが、警察は催涙ガスやラバー弾で弾圧。6月以降の逮捕者数は1000人を超え、女性が右目を失明するなど、けが人も続出している。デモ申請を許可しない警察に対し民主派は、無届け行動を続け、9月2日からは「全民ストライキ」も始まっていた。今後の推移を含め、香港の大学に勤める日系香港人の小出雅夫さんに話を聞いた。(文責・編集部/2・5面に関連)

デモを扇動挑発 「暴徒」化狙う当局

 今回のデモはいたって平和的ですが、警察が介入するととたんに荒れます。警察は混乱を起こそうとしています。市民を挑発し、デモ隊に紛れ込んで暴動を扇動していました。これについては記者会見で認めました。  

7月14日のデモを日本のメディアは「乱闘」と報じましたが、これも権力が仕組んだことです。警察は地下鉄駅の3方向の通路を封鎖して、ショッピングモールにしか人が入れない状況を作ったうえで警察を乱入させたため、混乱に陥ったのです。  

香港政府は当事者能力を失っており、「大変な状況だから法案を通すことができなかった」と北京政府に対する言い訳のために、弾圧を強化せざるを得ないのだと思います。  

また、7月21日にデモ隊が同弁公室の建物を包囲しました。その時の落書き行為を中国は「暴徒」として批判しましたが、単なる落書きではなく、書かれた文字は犠牲者への追悼文、黒塗りされていたのは中国の国章です。  

香港には、警察に届け出た「組織(ソサエティー)」と呼ばれるいくつもの市民グループがあります。ソサエティーごとのリーダーはいますが、一連の行動の全体統括をしているリーダーはいません。参加者は、ネット上でディスカッションし、投票機能を使い、多数の支持を得た計画を行動に移しています。デジタルネイティブ世代らしいやり方です。香港は徹底した個人主義ですから、大学の労働組合でも呼びかけはありますが、日本のように「何人来て」という動員は不可能です。  

当局は顔認証や盗聴などIT技術をフル活用して個人を判別しようとしているので、マスクで隠した参加者も多くいます。  

市民に広がった共感と支援の輪

一般市民にも共感が広がっています。デモ参加者は「抗争者」と呼ばれており、警察が出てきてもゴミ箱を集めてバリケードにしたり、催涙ガスが来たら投げ返すなど、警察と対峙することに積極的なヘルメット姿の人たちがいます。支持者は裁判費用をクラウドファンドで集めたり、抗争者がお腹を空かせているということで、ネットで飲食店のクーポン集めを呼び掛けたり、地下鉄が止まって帰りそびれた人へ仮眠所を提供するなどの支援を行っています。  

中国にとって経済的価値の大きい香港 人民解放軍の投入も視野に

中国政府の思惑ですが、金融・貿易都市として香港は中国にとって重要です。しかし香港を拠点に中国とのビジネスを行っている海外企業や香港の企業(中国企業とは別)が逃げ出せば、香港の経済的価値が落ち、不動産・証券市場もクラッシュし、中国経済にも波及します。武力で民衆のデモを鎮圧すれば国際社会から批判を浴び、経済制裁をまぬがれません。  

香港には、人民解放軍5000人が駐留しています。香港政府の要請以外にも、全国人民代表大会が「戦争状態」を宣言するか、国家の統一や安全への危機的状況が生じ、香港政府によってコントロールが不能な状態に陥ったと判断したとき、駐留人民解放軍が投入されます。  

しかしこれは、「一国二制度」の前提を消滅させ、国際社会から大きな反発を受けます。また、香港の一国二制度が失敗することで、一国二制度による台湾の統一を掲げてきた中国は、台湾問題解決の具体的な提案を失います。そのため、武装警察は牽制の意図で深圳でデモ鎮圧の訓練をしています。人民解放軍の指揮を受けながら、主に中国国内の治安維持にあたっている組織であり、「警察」と名乗っていますが、一般の警察業務を執り行う公安とは別系統です。  

香港は「高度な自治」が許される特別行政区ですが、行政長官は親中派で構成された選挙委員会で選出されるため、若者たちが「真の普通選挙」の実現を求めて抗議活動を始め、14年の「雨傘運動」に発展しました。  

今回問題になっている逃亡犯条例改正案は、容疑者の引き渡し先として中国本土が含まれていたため、民主化活動に関わったり、中国政府にとって不利益な人物と判断された場合、「容疑者」としてでっち上げられ、身柄が中国側に引き渡されることになります。またこれは、「高度な自治」の権利を破壊する攻撃です。だから学生や市民は、ここで黙ったら香港の将来がない、と闘っています。 (2・5面に関連記事)

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